木の精「きこりん」は難しいこともわかりやすく伝えられる。オリジナルキャラクターがつなぐ住友林業のコミュニケーションの秘訣

2005年、突如テレビCMに現れた「きこりん」は、住友林業が生み出した木の精のキャラクターです。きこりんがビル街を浮遊するインパクト抜群のCMは当時、多くの注目を集めました。そこから15年ほどが経ち、現在ではWebサイト「きこりんの森」やLINE公式アカウント、ARを活用したアプリなどのマルチチャネルを通じて、消費者とのコミュニケーションを続けています。

住友林業はどのような目的できこりんを誕生させ、きこりんの森からどのようなメッセージを伝えているのでしょうか。キャラクターを通じたコミュニケーションの裏側について、住友林業株式会社 コーポレート・コミュニケーション部 Web戦略グループ グループマネージャーの北浜秀則(きたはま・ひでのり)さんと、同じくWeb戦略グループの飯塚亜也子(いいづか・あやこ)さん、河相晃輔(かわい・こうすけ)さんにお話しを訊きました。

 

もともと堅いイメージの会社がなぜきこりんを?

初めてきこりんが登場したときの社内の反応はどういったものだったのでしょうか。

北浜秀則さん(以下、北浜):最初は社内でも「何だこれは」と噂になりましたね(笑)。ただ、その後多くのお客様からも「かわいい」という反応をいただくことが増え、だんだんと認知度も上がってきました。

 

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コーポレート・コミュニケーション部 Web戦略グループ

グループマネージャー 北浜秀則さん

 

北浜:住友林業はもともと堅い会社というイメージが強く、親しみやすさを感じてもらえていませんでした。また1691年の創業時から、企業として「木を植えて育てて伐って活用し、また植えて持続可能な森を育てていく」と発信していましたし、今で言う「サステナビリティ」にも取り組んでいたのですが、それも消費者には伝わっていなかったのです。そこで住友林業の取り組みをより伝えていくために、親しみやすいオリジナルキャラクターとして「きこりん」を生み出します。

——Webサイト「きこりんの森」では木や森についての知識が学べるコンテンツや、木を使った心理テスト、誕生樹を調べるといった遊びコンテンツなどが用意されています。「きこりんの森」はどのような方に向けたサイトなのでしょうか。

飯塚亜也子さん(以下、飯塚):もともとは幅広い世代に向けたサイトとして始めました。ただ現在では、子供たち、あるいは子供を育てている親御さんに向けて、自然に触れる機会を持ってもらいたいという思いでコミュニケーションを図っています。そのほか、たとえば山について調べたい方や、環境について教えている教育現場の方も対象です。

 

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コーポレート・コミュニケーション部 Web戦略グループ

飯塚亜也子さん

 

——きこりんの森の目的やKPIを伺えますか。

 

飯塚:きこりんを通して自然や環境に親しみを持ってもらうことや、住友林業の事業を知ってもらうことを目標にしていますね。

北浜:それらを測るために、PV(閲覧)数 UU(訪問者)数、ダウンロード数、クリック数等を毎月指標としています。一般的には認知度を重視しているブランドも多いかと思いますが、重要なのは住友林業の取り組みや、環境保全の大事さを知ってもらうことです。

 

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Webサイト「きこりんの森」トップページ

森と木のクイズや心理テストなど、遊べるコンテンツも充実

飯塚:林業という言葉自体が想像させるのは木を伐ることですよね。伐採は良くないというネガティブなイメージがある側面で、実際は植えて、切って、また植えてと森を循環させるのが林業です。実は、それが森の保全や森林環境にとって大事なことなんです。林業はあまり一般の方と接点のない事業ですが、きこりんの森を通じてそれが伝わるようになってきたと思います。

 

「共演NG」のきこりん、LINE登録者は700万人

——キャラクターを通じて、森林や自然環境の大事さを柔らかく伝えていくのが、きこりんの森で目指していることなんですね。最近はコンテンツを活用してメッセージを伝える、コンテンツマーケティングの取り組みが多くの企業でなされています。きこりんの森でもそうした文脈を意識しているのでしょうか。

北浜:そもそも、コンテンツマーケティング自体を意識して始めたものではありません。きこりんの森は、キャラクターを知ってもらう接点を設けて参加型のコンテンツを発信する、ブランディングの一環としてのWebサイトです。

飯塚:コミュニケーションの上ではきこりんというキャラクターを大事にして、世界観を壊さないように意識しています。きこりんは難しいこともわかりやすく伝えることができます。レギュレーションが厳しく決まっていて、テレパシーで話しているので言葉を発してはいけないとか、他のキャラクターとは共演NGといった規則もあります(笑)。でもこれらはすべて、キャラクターを通じてメッセージを伝えるうえで必要なことだと思います。

 

社有林の樹木から切り出した木材で作ったきこりん。

「樹齢のある大きな木から誕生しました」と飯塚さんは話す。

——きこりんを通じたコミュニケーションでは、LINE公式アカウントも運用されていますね。

北浜:きこりんの森でコンテンツを作りつつ、LINEの運用もしています。登録者数は700万人を超えていますが、その多くがきこりんスタンプとの連動で登録して頂きました。

飯塚:2016年からLINEを始め、1年に1度スタンプを作っています。最近はきこりんのCM展開をしていませんので、一般の方に知られる機会として大きな接点になっていますね。

——700万人はたしかに大きな数字ですね……! きこりんの森はどのような体制で運用されていますか。

飯塚:Webでのコミュニケーションは私と北浜、河相の3名で運営しています。きこりんはもともと、私たちの所属するコーポレート・コミュニケーション部の中の広告ブランドチームから生まれましたので、そちらのチームと連携することもあります。また、きこりんの森やLINEで発信するコンテンツは、一緒にきこりんを生み出した広告代理店さんとも意見を出し合いながら作っていっています。私たちがやりたいことや世の中に伝えたいことを明確に示して、提案をいただきながら進めるという流れです。

 

これからの鍵はマルチチャネルによる「広がり」

——現状で感じている課題にはどういった点があるのでしょうか。

飯塚:「森の樹木図鑑」や「森の図書室」などで、木や森の情報を貯めていくコンテンツはすでに充実しているので、今後は多くの人に拡散されていくようなコンテンツをもっと発信していきたいと思います。Instagramももっと活用していきたいですし、動画も積極的に作っていきたいと考えています。

北浜:Youtubeで動画も公開していますが、もっと多くの人に届くような何かをしかけていきたいです。住友林業では現在、創業から350年を迎える2041年を目標に、高さ350mの木造超高層建築物の実現を目指す研究技術開発構想「W350計画」を進めています。街を森に変える環境木化都市の実現を目指し、サステナビリティや環境保全への貢献にもつながる取り組みです。先日社内で、ミレニアル世代の若い人にもっと知ってもらうために動画を作ってほしいと要望されてしまって。若い世代の心を惹きつけるアプローチを考える必要もあるかと。そこに、きこりんを使って動画を作れば、親しみやすく分かりやすくなるのではないかなと考えています。

飯塚:私はきこりんのCMを見て好印象を持ち、入社しました。でも昨年入社した河相は、もしかしたらそういうアプローチではないのかも。

河相晃輔さん(以下、河相):就職活動中に、「住友林業にはきこりんというキャラクターがいるんだ」と後から知りました。私はテレビでは見たことがありませんでしたし、「きこりんの森」も部署に入ってから知ったんです。

 

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コーポレート・コミュニケーション部 Web戦略グループ

河相晃輔さん

 

飯塚:もしかしたら河相は新入社員の中でも特殊な例かもしれないですが、逆を言えばこういうところが課題かなと(笑)。

北浜:こういうところが課題です(笑)。どうしたら住友林業やきこりんのことを知ってもらえるかという、入り口の部分を広げていかねばなりませんね。きこりんの森やLINEアカウント、ARアプリなどのチャネルはすでにいくつかあるので、あとはそれらをどう活用していくかだと思います。

飯塚:きこりんの森は社外でも学びのために使われているようです。たとえば、学校の先生が教材として使っていて、「課題を出したいのでもう少し詳しく教えてくれないか」と問い合わせを頂くことがあります。ただ、きこりんという言葉を知らなければサイトにはなかなかたどり着けません。今後は、写真を撮ったら樹木の名前が分かるようなアプリを作りたいですね。子供と散歩している最中に、お母さんやお父さんが「この樹の名前はなんだろうね」と調べることができたり、大人の方も気になった樹を調べられたりするようなものをイメージしています。きこりんとも親和性が高くていいな、と。

北浜:それ面白いじゃないですか。

飯塚:お散歩しながら樹の名前をカード形式で集めていくなども楽しそうです。現在のARカメラアプリは緑色のものにスマホをかざすときこりんが出てくるのですが、そこから派生してさまざまな機能を追加できたら、もっと多くの人に広がっていくんじゃないかなと思います。

 

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——では最後に、今後の展望や目標をお聞かせください。

北浜:きこりんを通じてサステナビリティと木の可能性をもっと伝えていきたいですね。木というのは再生可能ですし、技術開発すればまだまだ多くのことができる。森の保全では、木を循環させて流通させ活用していかなければいけません。だからこそ家や大きな建物にも国産材を多く使ってもらって、国内の林業を活性化させるべきだと思っています。住友林業は山での林業から住宅建設まで、つまり「川上から川下まで」に取り組んでいる会社です。そのあたりの取り組みはきこりんを通じて親しみやすくわかりやすく伝えていきたいですね。

飯塚:最近では小学生に向けての環境保全の教育も進んでいます。小さい頃から森や自然の大事さについて触れてもらえれば、大人になっても自然の重要さを理解してもらえるのではないでしょうか。そういう意味でも、きこりんの森を通してこれから社会を担っていく子どもたちを育てていければいいなと思っています。木や森の大事さを分かりやすく伝える努力を企業として行っていくのが、住友林業の社会的な使命ですから。

 

●Interview & Text : 弥富 文次

●Photos : 多田 圭佑

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