eBookまで手がける東急リゾートによる、インバウンドマーケティングへの取り組み [デジタル・エンゲージメント vol.3]

コンテンツマーケティングにおいて核となるのは、消費者と企業・ブランド間のエンゲージメントです。そこで本コラム『デジタル・エンゲージメント』では、テクノロジーライターの大谷和利さんが「コンテンツマーケティングの元素表」を評価軸にしながら、マーケターたちが創造性を駆使して編み出したエンゲージメントを高めるための工夫を連載形式で紹介。読者の皆さんに新たな視点や気づき、アイディアを提供していきます。vol.3の今回は、国内外のリゾートライフを幅広く提案・開発している企業「東急リゾート」の取り組みに迫ります。

 

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リゾートのある暮らしを多角的にアピール

今回、ピックアップした東急リゾートは、日本国内はもちろん、ハワイやオーストラリアなどの海外物件にも精通し、実りあるリゾートライフをより多くの人々に提供するために、土地や新築/中古の一戸建て/マンション売買から、別荘の再生、会員制リゾートホテルの会員権販売まで幅広く手がけている企業である。

2015年末の自社Webサイト全面リニューアルに際して、オウンドメディアのコンテンツを重視したインバウンドマーケティングの考え方を大幅に採り入れ、リゾート物件という高額商品のセールスに新たな時代をもたらした。

不動産の購入は、なかなか即断即決というわけにはいかない。様々な情報を集めて比較し、自分や家族を納得させ、1つの確信に至ってから決断を下すことになる。特にリゾート物件の場合には、そこに「夢」や「憧れ」といった要素が果たす役割が大きい。当然ながら、業者が購入希望者に対して信頼関係を築くことも重要になってくる。

充実した情報提供や、夢の醸成、信頼関係の構築を重視する姿勢と、コンテンツマーケティングが持つ「企業のファンになってもらう」という側面はとても相性が良く、それが効果的に機能していると感じられる。

 

▲項目別に整理されたメインサイトのトップページ。実際にはこの下に、新築マンション物件やリゾート会員権などの情報が続く。最初に「買いたい」セクションがきているのは、ビジターの興味と一致しており理にかなっているが、コンテンツマーケティング的な観点からは「新着情報」が冒頭にあっても良いだろう。

 

▲コンテンツ系のページは、こちらの「リゾートSTYLE」という別ドメインのサイトにまとめられ、メインサイトの右上の「知りたい」のボタンからリンクされている。「リゾートSTYLE」で提供されるのは、「お役立ち情報」、「エリア情報」、「楽しみ方」、「暮らし術」、「インタビュー」の5カテゴリー+「まとめ情報」のコンテンツであり、全体としてBp、すなわちブログポスト的な役割を果たす。

 

▲コンテンツトップが、新着情報にアクセスしてもらうページであるのに対し、過去のアーカイブから年度別の人気記事や、軽井沢、沖縄などのエリアごとの記事を一覧できる「まとめ情報」も用意され、同じコンテンツを資産として利用し、目的に応じて効率よく読める工夫がなされている。

 

Webサイトの資産としてのeBook

東急リゾートのコンテンツマーケティングにおいて、特に注目に値するのは、eBookの充実に力を入れている点だ。

ブログの情報もサイト上でのマーケティング資産となる(東急リゾートの場合には、特に「まとめ情報」のところに、そのメリットが現れている)が、eBookはビジター側のデバイスにも保存される点や、ダウンロードと引き換えにビジターの情報を登録してもらい、後のビジネスに活かせる点が大きい。

中でも近年増えているタブレットユーザーならば、気に入ったビューワーアプリ上を使ってデジタル小冊子的な感覚で閲覧でき、Webページとは異なるムック的な構成も採れるので、家族と共に検討しやすいなどのメリットもある。

そのため、再編集作業などに多少手間はかかるとしても、もっと着目されて良いコンテンツといえるだろう。

さらに、東急リゾートでは、リゾート物件に興味を持つ消費者の層を広げる上で、都会とリゾートの二重生活を「ハイブリッドライフ」と名付け、そのメリットを短編漫画でアピールするページも設けている。これはeBookの体裁ではなくWebページとして提供されてはいるものの、それに準じるものと考えることができ、ビジターの反応や漫画コンテンツの充実次第では、この発展系をeBookとしてまとめることも考えられよう。

 

▲東急リゾートのコンテンツマーケティングに対する理解度の深さを示すのが、この無料でダウンロードできるeBookである。契約手続きや物件選びのポイントのような基礎知識から、リゾートエリアごとの中古別荘価格や軽井沢のおすすめ別荘エリアなどの物件寄りの情報までが、8つのガイドブックに集約されている。

 

▲各eBookのページへは、関連するコンテンツページからの直リンクも用意されており、ビジターの興味に即したアクセスも可能。また、ダウンロード時の情報登録によって、ニーズ別の潜在顧客のプロフィールが得られ、将来のビジネスに活かせる仕組みだ。

 

▲リゾート物件の購入というと、オーナーはそれなりの資産を持つ中高年が思い浮かぶが、より広い年齢層の開拓を念頭に置いた、このような漫画構成のページもある。独立したeBookの形式ではないが、それに準じる存在ともいえるだろう。

 

この他、「リゾートSTYLE」に含まれるコンテンツを元素表に当てはめると、「お役立ち情報」は専門家の意見も交えてテーマを掘り下げたRo(ラウンドアップ)、先輩オーナーにリゾートの楽しみなどを聞く「インタビュー」は、そのままInt(インタビュー)、エリアレポートなど「お役立ち情報」の一部は不動産業におけるRe(リサーチ)に相当している。

また、新着情報などをお知らせするメールマガジンも発行しており、これはアウトバウンド系のNe(ニューズレター)である。

 

▲「お役立ち情報」のコンテンツには、建築家に取材をしてまとめたリゾート物件の設計のポイントなどの話題も含まれており、広義の意味で、元素表のRoことラウンドアップに相当するセクションといえる。

 

▲「インタビュー」のコンテンツは、すでにリゾート生活をエンジョイしているオーナーへのインタビューをはじめ、地域のライフスタイル系NPO法人の関係者の体験談やアドバイスなどから構成されており、元素表でいうところのIntそのものの内容となっている。

 

▲製造業と異なり、東急リゾートは製品の研究部門などは擁しないが、「お役立ち情報」の中には、スタッフが実際に各地のリゾートエリアを自ら回って集めた地域調査的な記事も掲載されている。これは、元素表でいえば、自らを業界のエキスパートして位置付け、その目を通して特定領域に関する分析を行うRe、つまりリサーチコンテンツの一種といってよい。

 

まとめ

このように、先進的なコンテンツマーケティングを実践している東急リゾートだが、ソーシャルポストに関してはツイッターの公式アカウントのみが目立つ程度で、少々寂しい印象だ。

さらに、最終的なコンバージョンの決め手になると考えられるリゾート物件紹介のページが割合オーソドックスな作りとなっており、個人的には、昨今のビジュアルマーケティングのトレンドを採り入れることで、さらに魅力的な見せ方が可能になると感じられた。具体的には、物件内部やベランダからの眺めなどを紹介する360度のVR映像や、周囲の環境を一望できるドローン空撮などである。

 

▲東急リゾートのSpことソーシャルポストは、公式ツイッターが主体であり、ボットによる最新情報の自動発信が行われている。ほぼすべてのツイートに、自社Webサイトの詳細ページへのリンクが含まれており、そこからビジターを誘導する仕組みだが、フォロワー数はまだ少なめである。

 

▲最終的な取り扱い商品となるリゾート物件の紹介ページは、比較的オーソドックスな作りといえる。今後は、こうしたページやエリア紹介セクションで、360度のVR映像やドローンによる空撮などを採り入れることによって、より魅力が伝わり、コンバージョンにつながるコンテンツへと発展させていくことができそうだ。

 

そのような伸び代もありつつ、現在の東急リゾートのサイトの作り込みには、他の業種でも参考になる部分が多い。今後は、統計情報の視覚的な見せ方としてのInf(インフォグラフィック)や、Sp(ソーシャルポスト)とそこからのリンクを受けるLp(ランディングページ)などを充実させていければ、一層効果的なマーケティングが実現するものと思われる。

 

※文中で掲載している写真・図版は、すべて東急リゾート公式サイトからのキャプチャになります。

 

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大谷 和利(おおたに・かずとし)

テクノロジーライター、AssistOn取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツ、スティーブ・ウォズニアックのインタビュー記事をはじめ、コンピュータ、カメラ、写真、デザイン、自転車分野の文筆活動を行うかたわら、製品開発のアドバイスなども行う。主な著書・監修書に『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社)、『ICTことば辞典:250の重要キーワード』(共著。三省堂)、『ビジュアルシフト』(監修。宣伝会議)、『インテル中興の祖 アンディ・グローブの世界』(同文館出版)。主な訳書に『Apple Design日本語版』(AXIS)、『スティーブ・ジョブズの再臨』(毎日コミュニケーションズ)。

 

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